『光る風』 山上たつひこ 1972年・ちくま文庫所収
70年代に書かれたディストピア漫画。黙示録的な日本のカタストロフィが説得力をもって描かれている。
近未来に日本が第二次大戦以前のように全体主義化され、思想統制されて、アメリカの戦争に追従して海外派兵を始める・・・・てな感じで書くと凡庸な三文小説のようになるが、「いかにして同じ過去の過ちをもう一度繰り返すのか」という設定に対して巧妙に伏線を作ってある。
O・ハックスリィ『素晴らしき新世界』やG・オーウェル『1984年』などの過去の様々な破滅物語から小道具を折衷しながら構成している観は否めない。ただ、「過ちは繰り返される」ということにおいて、現在・過去・未来という時間軸はほとんど等しいものなのだ、というようなテーマの持っていき方にこそ、この作品の非凡さがあるのかもしれない。
いかにも70年代に描かれた作品という気もするが、70年代にしてすでにこんなに戦後民主主義に絶望している作品も珍しい感じもする。
それにしても、反体制分子を精神病院に収容する設定とか、まるで旧ソ連のプレジネフ時代の再現みたいですね。このマンガが描かれた頃はまだそういう逸話は伝わっていなかったと思うんですが。
By 9