Steve Reich 1990年
“Reich: Different Trains, Electric Counterpoint / Kronos Quartet, Pat Metheny”
1.Different Trains: America - Before the War
2.Different Trains: Europe - During The War
3.Different Trains: After the War
4.Electric Counterpoint: Fast
5.Electric Counterpoint: Electric Counterpoint: Slow
6.Electric Counterpoint: Fast
ジョン・ケイジに並ぶミニマル・ミュージックの分野における現代音楽の巨匠スティーブ・ライヒの1988年発表作。
ジミー・ヘンドリックスの「紫のけむり」などのポップスのカヴァーで知られるストリングス・グループ、クロノス・カルテットとの共演。
話し言葉の断片や列車サイレンの音をテープで流し、弦楽4重奏の反復されたフレーズを少しずつコードを変えながら進行する。
ストリングスになぞられるように反復する言葉の断片によって紡がれる主題。
第二次大戦前の移民アメリカ人が乗った列車の人々の言葉。大戦中のナチスのホロコーストの生き残りの人々が語る体験談。そして戦後生き残った人間たちが辿っていく軌跡。
この三部構成が、本来のミニマル・ミュージックの諸要素を大胆に活用しながら、それとは対極的に、動機を徹底操作した作家主義的な堂々たる大作に仕上げている。
ミニマル・ミュージックは現代音楽のコンテクストであり、ミニマル(反復)とは現代の位相を語る上で根幹をなすテーマである。
コピーやサンプルの代替可能なシステムが人間性排除を生み出してくるミニマルの表層は無機質である。
しかしここでライヒが展開したミニマル・ミュージックは反復の上に人々の生のドキュメンタリーな言語と、美しい弦楽のフレーズの展開を巧妙に織り上げることで、ミニマルの表層を突き破る生き生きとした物語性を獲得している。
本来、物語性や作家主義的動機を軸としないポストモダンなミニマルの諸条件が、この作品においては作品全体の劇性構成に貢献し、ロマン派音楽のような楽曲の叙情性を形作り、作者のメンタリスティックな主題を雄弁に語らせている。
このドラマティックな展開はその辺の映画音楽の安直なメローなコード進行よりも、過程の紡ぎとフレーズ一つの位相の切実さによって、ライヒが辿りつくミニマリズムの極北に、図らずもコピーや反復のシステムに対峙するわたしたちの現代の生の姿を共感的に訴えてくる。
反復としてのミニマリズムを徹底的に追求して行き着いたところに、本来のミニマリズムとは相反した、反復し得ない一回性の立ち位置が見える。
楽曲の構成上では反復でしかないそれらの「独白」が歴史上の証言の言葉としての等身大の重さを伴って、反復され得ない世界と人間についての「いま」「そこ」の一回性を紡ぎ上げる。
そこにはミニマリズムが相対性の地平において決して解消することのできない、わたしたちの「実存」の在り様が、愚直なオーソドックスを装いながら浮き彫りにされてくる。
今作ではパット・メセニーとの共演による「エレクトリック・カウンター・ポイント」('87年発表)も収録されているが、ここでも「ディファレント・トレイン」と似た方法論での楽曲が展開されている。